タイヤの科学 ゴム産業の終わらない革新

化学

タイヤの化学組成

タイヤの化学組成は、最大30種類のゴム、充填剤、その他の成分の複雑なブレンドからなる。

トレッドからサイドウォールに至るまで、タイヤの各構成部品はそれぞれの機能に合わせて設計された独自の組成を持っている。

天然ゴムや合成ゴムはもちろん、転がり抵抗を減らすシリカ、加硫工程で使われる酸化亜鉛や硫黄、ゴムを経年劣化から守るさまざまな酸化防止剤、抗ゾン剤、老化防止剤なども重要な材料だ。

エアレスタイヤに始まるタイヤ素材の歴史 ダンロップの功績 

歴史的に見ると、最初のタイヤは荷車や馬車の木製の車輪に鉄や鋼鉄のバンドをはめたものだった。

しかし、自動車の出現により、より耐久性があり、性能を重視したソリューションが求められるようになった。最初の空気入りタイヤは、1845年にロバート・ウィリアム・トムソンによって発明された。

それから約半世紀後、今も有名なタイヤメーカーのあのジョン・ダンロップが空気を封入したゴムチューブを用いて設計を改良し現代的なタイヤへの第一歩を踏み出した。

エアレスタイヤという製品が近年話題であるが、最初のタイヤはそもそもエアレスなのだ。ダンロップによる大革新がこの現在主流の空気タイヤだったのである。

天然ゴムから合成ゴムへの進化 もうプランテーションには頼らない?

ゴムの木の樹液から得られる天然ゴムは最初の生産用タイヤに使用された主要な材料であった。

帝国主義時代の森林を切り開いての大量の大規模プランテーションで大量生産されていた天然ゴムの使用は20世紀初頭にピークを迎えることになる。

天然ゴム

しかし第二次世界大戦ではこうした天然ゴムの製造所となっていた東南アジアの連合国と日本が戦争をしたことで、連合国はインド東側までの東南アジアの広大な植民地を全て失ってしまう。

これによりアメリカやヨーロッパの連合国の各国は天然ゴムの供給が脅かされたため合成ゴムの使用を増やしていくことになる。

かつてドイツやソ連で開発されたものだが、スチレンブタジエンゴム(SBR)やブタジエンゴム(BR)といった合成ゴムの開発と使用が一気に世界中で増加したのである。

そしてこれらの合成代替ゴムは、天然ゴムと同様の特性を持つだけでなく、気候に左右されにくく摩耗や損傷に強いという更なる利点があり今でも世界中で使われている。

タイヤの革新

カーボンブラックの重要性 タイヤといえば黒

タイヤのゴムコンパウンドにカーボンブラックを加えることでタイヤの強度と耐久性が劇的に向上した。カーボンブラックは不十分な空気供給の中で炭化水素を燃焼させ、その結果生じる煤を捕捉して作られる微細な黒色粉末である。

ゴムコンパウンドに混ぜることで、タイヤの引っ張り強度と耐摩耗性を高められるのだ。さらにゴムを劣化させる原因となる紫外線やオゾンに対するタイヤの耐性を高める効果もある。

補強材 ゴムだけじゃない

織布とスチールワイヤーは、タイヤ内の重要な補強材である。織物は一般にポリエステル、レーヨン、ナイロンから作られ、タイヤに形状と柔軟性を与える層であるプライを作るために使用される。

スチール・ワイヤーはビードを形成し、ホイールのリムにしっかりとフィットさせるとともに、スチール・ベルトの構造にも使用され、タイヤの剛性と耐久性に貢献する。

加硫の時代 グッドイヤーの大貢献

現代のタイヤ製造の物語は、加硫の発見から始まります。加硫以前のタイヤは、暑いとベタベタし、寒いと硬くなりやすく、急成長する自動車産業には不向きだった。

1839年にチャールズ・グッドイヤーがゴムを硫黄で加熱する加硫を発見したことで、温度変化に耐え、耐久性がはるかに高い素材が生まれ、タイヤ業界に革命をもたらした。

タイヤトレッドの重要性

タイヤのトレッド(路面に接するタイヤ表面の模様)は、自動車の安全性に重要な役割を果たしている。1904年にコンチネンタルが溝付きタイヤを発明したのは大きな進歩だった。

トレッドはタイヤの下から水を排除し、グリップを向上させ、雨の日にブレーキをやるとなかなか止まれない、いわゆるハイドロプレーニング現象のリスクを低減する。

現代のトレッドは、トラクション、摩耗、ノイズのバランスを取るために慎重に設計されている。トレッドのデザインは、雪、泥、レース用途など、さまざまなコンディションに特化させることもできる。

ラジアルタイヤの導入

1940年代、ミシュランがラジアルタイヤを発表したことで、タイヤの歴史に大きな転機が訪れた。

プライコードが斜めに敷かれ、十字パターンを形成していた従来のタイヤとは異なり、ラジアルタイヤはプライコードが放射状に、つまり進行方向に対して90度の角度で敷かれていた。このデザインはグリップとタイヤの寿命を向上させ、現在でも主流となっている。

スチールベルト

タイヤ技術におけるもうひとつの重要な発展は、スチールベルトの導入によるものである。

スチールベルトとは、ゴムをコーティングしたスチールコードの層を、トレッドの下でタイヤの周囲に配置したものである。このベルトは、トレッド摩耗の改善、耐パンク性の向上、高速安定性の向上など、いくつかの利点をもたらす。

B.F.グッドリッチは、1966年に初のアメリカ製スチールベルト付きラジアルタイヤを発売した。

エアレスタイヤ

今日、メーカーは非空気タイヤ(NPT)としても知られるエアレスタイヤ技術を模索している。

空気を入れる必要のないこのタイヤは、タイヤのパンクや吹き飛びの問題を解消し、安全性を向上させる可能性がある。

ミシュランは、”Tweel “と “Uptis “というタイヤコンセプトで、この技術開発の最前線にいる企業のひとつである。

グリーンタイヤ

近年タイヤ業界は環境への配慮から持続可能な素材を使った「グリーンタイヤ」に注目している。カーボンブラックの代わりにシリカが補強フィラーとして使用されるようになり、転がり抵抗の低減と燃費の向上を実現している。

さらにメーカーは、従来の石油系材料の代わりに、タンポポゴムのような再生可能な材料の使用を模索している。

ちょっと余談 タイヤのトリビア

私たちがタイヤから連想する黒色は自然の色ではない。

自然のままのゴムは上の方の動画でも見てもらったように乳白色である。タイヤが黒いのは先ほど述べたカーボンブラックを加えることで耐久性と寿命を高めているからだ。実際、初期のタイヤは白色か薄い色合いだった。

タイヤに関連する臭いは製造に使用される揮発性化合物に由来する。時間の経過とともにゆっくりとオフガス化する。古いタイヤほど臭わない訳だ。

また使用済みタイヤは新しいタイヤやその他のゴム製品にリサイクルされたり、土木工事やエネルギー回収システムの燃料として利用されたりと、さまざまな用途で第二の人生を歩むことになる。

備考

シリカ

天然に存在するケイ素と酸素の化合物である。

自然界では石英として最も一般的に存在し様々な工業用途に使用されている。ガラス、コンクリート、シリコンチップなどの製品の主成分である。また、食品産業や製薬産業では固結防止剤として使用されている。

タンポポゴム

ゴムの木から採取される従来のゴムに代わる持続可能な素材である。ある種のタンポポの根にはゴムに加工できるラテックスが含まれている。

この種のゴムはまだ実験段階だがゴム生産による環境への影響を軽減できる可能性がある。