料理における欠かせない化学反応
メイラード反応は様々な調理工程に不可欠である。
パンの茶色い皮、
お菓子のカリカリとした風味豊かなクラスト、
焙煎したコーヒー豆の風味と色、
同様にチョコを作る過程でのカカオの焙煎による風味強化、
こんがり焼けたステーキの豊かな風味、
ローストした野菜の香ばしい味、
これらは全てこの反応によるものである。
こちらは牛肉のローストの動画だ。こうした茶色っぽい色の料理はメイラード反応が起きていると覚えて置くと良いと思う。実際にほとんど起きているのだ。
例えば食肉では、炙ったり焼いたりする際にメイラード反応が起こり、熱によって肉の表面に焼き色がつき、豊かで香ばしい風味が生まれる。同様に、パンを焼く際にも、皮の部分で反応が起こり、独特の黄金色とトースト風味が生まれる。
そのためもちろん家庭やレストランでも重要であり、醸造、製パン、製菓産業など各種食品業界においても重要な化学反応である。
メイラード反応の由来
メイラード反応の由来は1910年代にフランスの化学者ルイ・カミーユ・メイラードが初めて研究したことから名付けられたものだ。彼は人体内のアミノ酸と糖を研究していた研究者だ。
ただ、料理におけるメイラード反応の歴史は正式な発見よりももちろん古い。人類がその化学的背景を理解する以前から何千年もの間、料理に活用されてきた。
そしてメイラードの研究発表からすぐに広く理解されたわけではない。食品科学分野におけるその重要性が完全に理解されたのは彼の研究から40年ほどたった1950年代になってからである。
メイラード反応のメカニズム
分類的には非酵素的な褐変の一種である。
シンプルに言えば熱によってアミノ酸と還元糖が化学反応を起こすものだ。
この反応により、様々な風味、香り、色の原因となる異なる分子が形成され、様々な食品の魅力を高めるわけである。
具体的には?
もう少し掘り下げるならこういうことである。
アミノ酸と還元糖の反応から始まり、グリコシルアミンと水が生成される。
次にグリコシルアミンが転位を起こし、ジケトサミン、ケトサミン、アルドリンなど様々な化合物を生成する。
反応が続いて温度が上がると、これらの化合物はさらに複雑な反応を起こし、最終的に特徴的な風味と色の分子が生成されるのだ。
これが一連のプロセスだが、生成される正確な化合物やその官能的効果は関与する特定の糖やアミノ酸、また調理条件によって厳密には大きく異なる。
メイラード反応に関する近年の研究
メイラード反応は食品調理における役割で最もよく知られているが、他の分野でも重要な役割を果たしている。例えば医療分野では、老化や糖尿病やアルツハイマー病などの病気との関連が研究されているのだ。これらの疾患はメイラード反応によって生成される高度糖化最終生成物(AGEs)の体内蓄積と関連しているといわれている。
あまり知られていないがメイラード反応はタンパク質と糖質を含む食品だけに起こるわけではない。ベジタリアンやビーガン、仏教徒でいえば精進料理の料理も含め、アミノ酸を含むあらゆる食品で起こりうる。そしてこの反応こそが、植物性の代用肉に肉のような風味と食感を与えているのだ。
メイラード反応は食品に風味と色を与える一方で、アクリルアミドなどの潜在的に有害な化合物を生成する可能性もある。アクリルアミドは潜在的な発がん性物質で、フライドポテトのように高温で調理された高炭水化物食品に生成されるものだ。
ということで、今後の研究にもよるので断定は勿論できないが、美味しいからと言って食べすぎは注意かもしれない。
メイラード反応のコントロール
メイラード反応の魅力のひとつは、反応をある程度コントロールできることである。調理温度と時間、そして食材の水分量を調整することで、メイラード反応のスピードと程度に影響を与えることができる。温度が低くて水分が多いと反応は遅くなり、温度が高くて水分が少ないと反応は速くなるわけだ。
炙ったステーキやローストした野菜の風味が、茹でたものより強いのはこのためである。
pHの影響
実はpHの役割もこの反応にはある。食品の酸性・アルカリ性は反応に大きな影響を与えるわけだ。アルカリ性はメイラード反応を促進し、より強い褐変と風味の発現をもたらす。この原理はなんとプレッツェル作りに活かされている。生地を焼く前にアルカリ性の溶液につけて焼き色をつけるのだ。同様に、玉ねぎをソテーする際に重曹を加えると、褐変が早まる。いわゆる飴色のタマネギになるわけだ。
キャラメリゼとの違い
しばしば混同されることを最後に。
カラメル化とメイラード反応は異なるプロセスである。どちらも加熱調理された食品の褐変と風味の向上に寄与する反応だが別物なのだ。
カラメル化は糖のみを含み、高温で起こる。対して、メイラード反応は糖とアミノ酸の両方を含み、低温でも起こる反応だ。
とはいえ多くの調理プロセスでは、両方の反応が同時に起こることも多く、料理の面ではどちらも味と香りの複雑な相互作用に寄与しているといえる。
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