アラビアガム、キサンタンガム?増粘多糖類について

化学

増粘多糖類って何?

増粘多糖類は味などの他の特性を大きく変えることなく、溶液、懸濁液、エマルションの粘度を増加させる物質の総称だ。

食品産業やその他多くの分野で使用されている長鎖の炭水化物分子である。ちなみにエマルションは分散媒に分散質がとけたもの、つまり液体の中に液体が解けたものだ。例を挙げると絵の具やマヨネーズなどである。

candy-3200857_1280 アラビアガム、キサンタンガム?増粘多糖類について

よく見る成分表のアルギン酸、アラビアガムって何?

増粘多糖類は総称であるので具体的な個別の増粘多糖類の物質の名前をあげるなら、デンプン、セルロース、アルギン酸、アラビアガム、キサンタンガムなどである。これらは水を吸収して膨張することで機能し、添加された食品の粘度を変化させるわけだ。

増粘剤の起源はもちろんその種類により様々である。例えばデンプンはトウモロコシ、ジャガイモ、小麦など多くの植物に由来する。一方でセルロースは緑色植物の細胞壁に含まれる。

さて、デンプンとセルロースの2つは中学の生物でも聞くだろうし馴染みがある方も多いと思うが、ここから後ろ三種。

まずはアルギン酸。これは海藻、特に褐藻類から採取される天然の多糖質だ。ゲル化にも向いているためゼリー状にするのが目的のときに特に使える。

アラビアガム、またはアラビックガム。これはアカシアの木の樹液から製造される。これはマイルドに色々使いやすい印象だ。

そしてキサンタンガムはキサントモナス・キャンペストリスという細菌が糖を発酵させることで作られる増粘多糖類だ。ドレッシングやスープなどにも使えるが、他のに比べても少ない量で高い粘度を出すことが可能なため、高粘度のものに適している。

アカシアの木からとれるアラビックガムだ。

増粘多糖類の利用

多糖類の増粘剤は多様な商業的用途がある。食品・飲料業界では、増粘剤だけでなく成分が分離するのを防ぐ安定剤としての役割も担っている。

例を挙げるならば、サラダドレッシングやソース、アイスクリームやグルテンフリーの焼き菓子など、あらゆるものに使用されている。

さらに、化粧品(クリームやローションの増粘剤)、医薬品(錠剤やカプセルの賦形剤)、石油掘削(掘削泥水の増粘剤)など、食品以外の分野でも利用されている。

歴史的には増粘多糖類の使用は古代にまでさかのぼる。

例えば古代エジプトでは、象形文字の絵の具にアラビアガムを使用していました。さらに、これらの増粘剤は食感や安定性を向上させるためだけのものではない。例えばオーツ麦や大麦に由来するβ-グルカンなどの特定の多糖類が、コレステロール値を下げる効果があることが研究で示唆されている。

よく振ってから

ドレッシングのボトルに「よく振ってからお使いください」と書いてあるものがあるのを見たことはないだろうか?

これは、ドレッシングに含まれる増粘多糖類が時間とともに沈殿してしまうためだ。振ることでドレッシング全体に均一に分散させることができ本来の役割を果たせるわけである。

またちょっとした両面性についての話も述べておきたい。

先に述べたように低濃度で高い効果を発揮し幅広い温度とpHレベルで安定であるキサンタンガム。これを作ってくれるキサントモナス・カンペストリスという細菌は、そうしたよいことをしてくれるだけではない。実はキャベツやブロッコリーなど多くの作物に病気を引き起こす植物病原菌であったりするのだ。科学にはつきものだが要は使いようということである。

まとめ

このように増粘多糖類は私たちの生活のさまざまな場面で欠かせない存在である。

食事の面ではクリーミーなソースを楽しんだり、肌にしっとりとした化粧水や、のっぺりとした乳液を塗ったり、あるいは絵を描くときは絵の具として、さまざまな用途や産業で重要な役割を担っている物質なのである。

主要な増粘多糖類とその特徴【追記】

植物由来の増粘多糖類

デンプンとその誘導体

デンプンは地球上で最も豊富に存在する炭水化物の一つであり、トウモロコシ、ジャガイモ、小麦など様々な植物から抽出されます。食品業界では増粘剤、安定剤、充填剤として広く使用されています。

天然のデンプンはそのままでは加熱や冷却による物性変化が大きいため工業用途では化学的に修飾されたデンプン(加工デンプン)が多く使用されます。酸化デンプン、リン酸化デンプン、アセチル化デンプンなど目的に応じた様々な修飾デンプンが開発されています。

セルロースとその誘導体

セルロースは植物細胞壁の主成分であり木材やコットンなどに豊富に含まれています。天然のセルロースは水に不溶ですが化学的に修飾することで水溶性の増粘剤となります。

カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの誘導体は食品、医薬品、化粧品など幅広い分野で使用されています。特にCMCは安価で安定性が高く幅広いpH範囲で機能するため多くの製品に利用されています。

これらのセルロース誘導体は温度応答性という興味深い特性を持つものもあります。例えばメチルセルロースは低温では水によく溶けますが温度が上昇すると逆に粘度が増加してゲル化します。この特性は温かいスープやソースが冷えたときに分離するのを防ぐため、また加熱調理される食品の食感を維持するために利用されています。

加工食品では「セルロース」や「セルロースガム」として表示されることが多く天然由来の食物繊維として安全性が高い添加物とされています。また食物繊維としての機能も持ち合わせているため低カロリー食品の開発にも用いられています。

アラビアガムの主な特徴は低濃度でも優れた乳化性と安定性を示すことです。複合的な化学構造を持ちタンパク質成分を含むことが乳化特性の鍵となっています。また酸性条件下でも安定であり広いpH範囲で使用可能です。

食品業界ではソフトドリンクのフレーバー安定剤、キャンディーのコーティング剤、乳化剤などとして利用されています。歴史的には古代エジプト時代から使用されており象形文字の絵の具にも使われていたことが知られています。

海藻由来の増粘多糖類

アルギン酸

アルギン酸は主に褐藻類(コンブ、ワカメなど)から抽出される多糖類で食品添加物として広く使用されています。その最大の特徴はカルシウムイオンの存在下で急速にゲル化する性質です。

このゲル化特性を利用して食品業界ではデザートやジャム、フルーツフィリングなどの製造に利用されています。また分子料理の分野では「球形化」と呼ばれる技法にも用いられ液体の外側だけをゲル化して球状のカプセルを作る革新的な料理の創出に貢献しています。

医療分野でも重要な役割を果たしており歯科用印象材や創傷被覆材として利用されています。アルギン酸カルシウムは湿潤環境を維持しながら創傷からの浸出液を吸収する特性があり治癒を促進することが知られています。

また胃酸に接触するとゲル化する性質を利用して胃食道逆流症(GERD)の治療薬としても用いられています。胃の中でゲル状の浮遊層を形成し胃酸の逆流を物理的に防ぐという巧妙なメカニズムです。

カラギーナン

カラギーナンは主に紅藻類から抽出される硫酸化多糖でκ(カッパ)、ι(イオタ)、λ(ラムダ)の3種類が商業的に利用されています。それぞれのタイプで異なるゲル特性を持ち食品の質感設計に幅広い選択肢を提供します。

特に乳製品との相性が良くチョコレートミルクの安定剤やアイスクリームの氷結晶抑制剤として重宝されています。少量の添加で効果を発揮するためコスト効率の良い食品添加物として世界中で使用されています。

κ-カラギーナンは強固で脆いゲルを形成しゼリーやプリンなどの固形デザートに使用されます。一方ι-カラギーナンは弾力性のあるゲルを作り柔らかいデザートやパテの食感改良に適しています。λ-カラギーナンはゲル化せず増粘効果のみを示すためドレッシングやソースに利用されることが多いです。

寒天

寒天は紅藻類の一種である海藻から抽出される多糖類で主にゲル化剤として使用されます。日本では古くから食品に使われてきた歴史があり「和菓子」や「羊羹」には欠かせない素材です。

寒天の最大の特徴は高温(約85℃以上)で溶解し冷却すると強固なゲルを形成する温度可逆性のゲル化です。カラギーナンやゼラチンとは異なり一度ゲル化した寒天は40℃程度まで加熱しても溶けないという特性を持っています。

また寒天は消化酵素で分解されにくいため食物繊維として機能し整腸作用が期待できます。カロリーもほとんどなくダイエット食品の素材としても注目されています。

微生物培養の分野では細菌の培地として広く使用されており科学実験や医学研究にも欠かせない素材となっています。

微生物由来の増粘多糖類

キサンタンガムとは何ですか?他の増粘剤と比べてどのような特徴がありますか?

キサンタンガムはキサントモナス・キャンペストリスという細菌が糖を発酵する過程で生産する多糖類です。

キサンタンガムの最大の特徴は低濃度でも高い粘度を示しその粘度が広範囲の温度、pH、塩濃度条件下で安定していることです。またせん断流動性(力を加えると流れやすくなり力を除くと元の粘度に戻る性質)に優れているためサラダドレッシングなどに適しています。

わずか0.1%の添加でも顕著な増粘効果を示すため経済的にも優れた増粘剤といえます。食品業界ではドレッシング、ソース、乳製品などに広く使用されているほか石油掘削用泥水の調整剤としても重要な役割を果たしています。

興味深いことにこのキサンタンガムを生産する細菌はキャベツやブロッコリーなどのアブラナ科植物に黒腐病を引き起こす病原菌でもあります。有用な物質を生産する一方で農業被害をもたらすという両面性を持っているのです。

物理的にはキサンタンガムの分子構造は剛直な棒状で糖の主鎖に分岐した側鎖を持つユニークな構造をしています。この構造が分子間の相互作用を促進し少量で効果的な粘度増加をもたらす要因となっています。

ジェランガム

ジェランガムはスフィンゴモナス属の細菌によって生産される多糖類で熱可逆性のゲル形成能を持ちます。特に低濃度(0.05-0.25%)で透明度の高いゲルを形成できる特徴があります。

食品業界ではデザート、ジャム、ゼリー飲料などに使用されるほか微生物培養用の固形培地としても利用されています。高温で溶解し冷却するとゲル化するという特性は様々な食品テクスチャーの設計に役立っています。

ジェランガムの強みは寒天やカラギーナンよりも低濃度で使用できることと酸性条件下でも安定したゲルを形成できることです。そのためフルーツを含む酸性の食品でも透明で美しいゲルを作ることができます。

最近ではビーガン向け食品の増粘剤・ゲル化剤としても注目されています。動物由来成分を含まないためゼラチンの代替として様々な食品開発に利用されているのです。

デキストリン

デキストリンは乳酸菌の一種であるロイコノストック菌によって生産される多糖類です。グルコース単位が主にα-1,6結合で連結された構造を持ち分子量や分岐度によって様々な物性を示します。

主に製パン改良剤として使用されパンの保湿性や食感の向上に寄与しています。

デキストリンは特定の分子量範囲のものがプレバイオティクスとしての機能も持ち腸内細菌叢の改善に役立つことが研究されています。また化粧品分野では保湿成分としても利用されているのです。