核燃料再処理とは
核燃料再処理は使用済み核燃料からウランやプルトニウムのような貴重な元素を分離する一連の化学操作であり複雑な手順である。
このプロセスは再利用可能な元素を抽出することによって高レベル廃棄物の量を大幅に削減するものである。
リサイクルされたウランとプルトニウムは代替タイプの核燃料である混合酸化物(MOX)燃料に使用することができる。これは、持続可能なエネルギー利用の一側面といえる。
再処理技術の進化とトリビア
プロセスはその開始以来進化してきた。ピューレックス(プルトニウム・ウラン抽出)のような方法は、現在ではUREX(ウラン抽出)のようなより高度な技術にほぼ取って代わられている。
再処理で採用されている興味深い技術としてガラス固化があげられる。高レベル廃棄物をガラス形成材料と組み合わせ、溶けるまで加熱し安定したガラス状に固化させる。
核燃料再処理は長寿命の放射性元素であるマイナーアクチニドを、より早く崩壊する同位体に変換し、廃棄物の長期的な放射性毒性を低減することにも役立つ。そして再処理の魅力的な側面は、高速中性子炉(FNR)を活用してアクチニドやその他の長寿命同位体を燃焼させる可能性である。
核燃料再処理は主に軽水炉(LWR)の使用済み燃料に焦点を当ててきたが、最近の開発は高温ガス炉(HTGR)や溶融塩炉(MSR)の使用済み燃料の再処理の可能性を示唆している。
使用済み核燃料には放射化学分析が行われ、照射下での燃料の挙動について原子炉運転員に貴重なフィードバックを提供する。こうした研究は原子炉の性能と安全性の向上に寄与している。
世界中で当たり前のように行われているわけではない。技術的に高度なことから積極的に取り組んでいるのはフランス、英国、日本など数カ国だけである。世界最大級のフランスのラ・アーグ工場では、年間1,700トンの使用済み核燃料を処理する能力がある。
核燃料再処理のメリット
将来的には高温電気化学的方法であるパイロプロセシングのような最先端技術が関与する可能性があり、使用済み核燃料のより安全で効率的なリサイクル手段を提供する可能性がある。
核燃料再処理産業はその環境への影響について批判を浴びることが多いがこのプロセスが廃棄物の発生量を最小限に抑えながら核燃料から最大限のエネルギーを取り出すという、クローズド核燃料サイクルの実現という目標に貢献している。
もともと第二次世界大戦中に核兵器用のプルトニウムを分離するために開発された軍事的なルーツを持っている。
そして現在はそれとは真逆に核軍縮プロセスとの複雑な関係もある。あるプログラムでは兵器級プルトニウムがエネルギー生産用のMOX燃料に再利用されており、これは平和促進的な意味合いもあるかもしれない。
この産業ではロボット技術の進歩が高放射性物質の取り扱いと処理に役立っている。
再処理の一連のプロセスが合成元素の生成につながることを知らない人もいるかもしれない。
事実、ノベリウムやメンデレビウムのような元素は核燃料再処理の廃棄物から初めて発見された。またプルトニウム崩壊の副産物であるアメリシウムを分離する可能性も再処理プロセスにはある。アメリシウムは煙探知機や工業用計器に使用することができる。
この技術は、宇宙船の動力源としていくつかの宇宙ミッションで使用されているラジオアイソトープ熱電発電機(RTG)用の同位体を生成することができる。
核燃料再処理のデメリットとなる点
放射能への危惧以外に、投資が高額なことによる経済的理由から核燃料の再処理に反対する政策をとっている国もあり、その代わりにこうしたところでは使用済み核燃料を直接処分するワンススルー核燃料サイクルを選択することになる。
原子炉にも言えることであるが、それと同等か、それ以上に、放射能漏れへの根強い危惧、また安全保障上の懸念も再処理施設を考える場合は忘れてはならない点である。
備考
再処理の用語集
PUREXとUREXは、使用済み燃料を再処理するための化学プロセスであり、それぞれに利点と欠点がある。
PUREX(プルトニウム-ウラン抽出プロセス)
ピューレックス法。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランを抽出するための化学的手順である。
このプロセスでは、燃料棒を硝酸で溶解し、その後、一連の化学分離を行う。抽出されたプルトニウムとウランは、新しい燃料棒の製造や他の目的に使用することができる。
ピューレックス法は最も一般的に使われてきた再処理法で、20世紀半ばから稼働している。しかし、抽出されたプルトニウムが核兵器に使用される可能性があるため、核拡散の懸念が指摘されている。
UREX(ウラン抽出プロセス)
UREXは廃棄物の量を減らし核拡散抵抗性を高めることにより、PUREXを改善するように設計された先進的な再処理方法である。
UREXプロセスは、使用済み燃料からウランを分離するが、他のアクチニドと核分裂生成物を残すため、兵器化には適さない。
取り出されたウランは、原子炉で再利用するためにさらに処理することができる。
MOX燃料(混合酸化物燃料)
MOX燃料は、プルトニウムと天然ウラン、再処理ウラン、劣化ウランの混合物を含む核燃料の一種である。
MOX燃料は、使用済み燃料棒から得られるプルトニウムのリサイクルを可能にし、他の方法では廃棄物とみなされるプルトニウムを利用する方法を提供する。MOX燃料は、加圧水型原子炉や高速中性子炉など、一部の原子炉で使用されている。
しかし、MOX燃料は従来のウラン燃料よりも製造コストが高く、核拡散の懸念がある。
マイナーアクチニド
ウランとプルトニウム以外のアクチニド元素で、原子炉で少量生産される。ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどが含まれる。マイナーアクチニドは通常、使用済み核燃料に含まれ、半減期が長く放射能が高いため、長期的な廃棄物管理にとって重要な懸念材料である。マイナーアクチニドを分離し、リサイクルまたは中和する効果的な方法を見つけるための研究が進行中である。
パイロプロセシング
使用済み核燃料を再処理する方法であり、PUREXのような従来の水性方法とは異なる。電気化学的手法を用いて、廃棄物からアクチニドを分離する。乾式再処理は、他の方法よりも核拡散抵抗性が高く、高速炉燃料の再処理に適していると考えられている。放射性廃棄物の量と毒性を減らすことができるが、まだ実験段階にあり、広く採用されていない。
RTG(ラジオアイソトープ熱電発電機)
同位体(典型的にはプルトニウム238)の自然放射性崩壊によって発電する装置である。崩壊時に放出される熱は、熱電材料を使って電力に変換される。RTGは信頼性が高く、過酷な条件下でも作動するため、宇宙ミッションや遠隔地での使用に理想的である。しかし、放射性物質を使用するため安全性とセキュリティ上の懸念があり、エネルギー変換効率は比較的低い。
ニュースでよく聞く色々な原子炉
FNR(高速中性子炉)
FNRは原子炉の一種でほとんどの商業用原子炉で使用される熱中性子とは対照的に、核分裂プロセスを維持するために高速中性子を使用する。
FNRは燃料の使用効率が高く、マイナーアクチニドを含む核廃棄物を消費することもできる。このため、核燃料サイクルを閉じ、廃棄物を削減する上で魅力的である。
しかし、FNRは熱中性子炉に比べ、建設と運転が複雑で高価である。
また、高い中性子束に耐えられる高度な材料も必要となる。
LWR(軽水炉)
発電に使用される最も一般的なタイプの原子炉です。
冷却材と中性子減速材として普通の水を使用します。軽水炉には主に2つのタイプがある: 加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)である。
加圧水型原子炉(PWR)では、水は沸騰しないように高圧に保たれ、沸騰水型原子炉(BWR)では、炉心で水を沸騰させる。
軽水炉は一般的に安全で効率的と考えられているが、かなりの量の放射性廃棄物が発生する。軽水炉は他の原子炉に比べて低い温度で運転されるため、熱力学的効率が制限される。
高温ガス炉(HTGR)
高温ガス炉は、冷却材としてガス(通常はヘリウム)を使用し、減速材として黒鉛を使用する。
これらの原子炉は軽水炉に比べてはるかに高温で運転できるため、熱効率が高く、水素製造など発電以外のさまざまな産業用途に適している。
また、運転温度が高いため受動的な安全性を確保でき、メルトダウンのリスクを低減できる。しかし、高温ガス炉は建設コストが高く、軽水炉ほど広く採用されていない。
MSR(溶融塩炉)
MSRは、燃料と冷却材の両方に溶融塩の混合物を使用する。
つまり従来の原子炉で使用される固体燃料棒ではないのが特徴だ。
この設計により、運転温度の上昇、熱効率の向上、固有の安全機能など、廃棄物の少なさなど、多くの利点が得られる。
MSRはまた、トリウムを含むさまざまな種類の燃料を使用するように設計することができ、核廃棄物を消費するように構成することもできる。しかし、溶融塩の腐食性と、必要とされる化学処理システムの複雑さは、エンジニアリング上の大きな課題である。
軽水炉は現在の原子力発電産業の主力であるが、効率と廃棄物生成に限界がある。高温ガス炉とMSRは、より高い効率と安全性を提供するが、独自の技術的・経済的課題を伴う。
以下では特にトリウムのMSRについて述べたい。
トリウム溶融塩炉
最後に特にトリウム溶融塩炉について。
余談だが、たまに間違える方も多いので念のため書いておくがトリチウムではない。トリチウムは三重水素でトリウムは原子番号90のアクチノイド元素だ。
原素でいえばHとThで全くの別物であり重さもかなりかけ離れた元素である。
さて本題である。
MSRで使用される同位体であるトリウム232は、地殻中にウランよりも豊富に存在する代替核燃料だ。
トリウムが中性子を吸収すると、核分裂性物質であるウラン233に変化し、核連鎖反応を維持することができるのである。
また、トリウムMSRでは、燃料はフッ化物塩または塩化物塩の混合物に溶かされ、核燃料キャリアと冷却材の両方の役割を果たす。
この液体燃料は炉心内を流れ、熱伝達と核反応を促進するのだ。
トリウム融解塩炉のメリット
先述の通りMSRは従来の水冷式原子炉よりも高温・低圧で運転されるため、発電のための熱効率が向上し、爆発的な圧力上昇のリスクが低減され従来の原発より安全といえる。
受動的安全システムも組み込まれている。
例えば、過熱時には凍結プラグ(能動的な冷却によって凍結状態を維持する固体塩の栓)が溶け、溶融塩燃料が受動的に冷却された未臨界の格納タンクに排出され、人為的な介入なしに原子炉を効果的に停止させることができる。
トリウム燃料サイクルはウラン燃料サイクルに比べて、長寿命の放射性廃棄物の発生が大幅に少ない。
さらに、MSRは、トリウムから核分裂性物質を増殖させることで、既存の核廃棄物を燃やすように設計することができ核廃棄物蓄積の問題を解決できる可能性がある。
核兵器転用などの問題についてもより安全とされているのも特徴だ。
核拡散抵抗性について。トリウム自体には核分裂性はない。トリウムMSRで生産されるウラン233には、強いガンマ線を放出する崩壊生成物を持つウラン232のような汚染物質が含まれるため、ウラン233を核兵器に使用することは難しく、核拡散抵抗性があるといわれているわけだ。
トリウム融解塩炉のデメリット
メリットを多く挙げたが、デメリットももちろんある。
トリウムMSRの開発は、溶融塩による材料の腐食、高放射能燃料とその副産物の管理は依然として課題で慎重に考慮する必要があるだろう。これらの原子炉の独特な特徴に対処するための新たな規制枠組みの必要性など技術的以外に法的な課題に直面している。
ちなみに現在、中国、インド、米国など数カ国がトリウムMSR技術の研究開発に投資している。
ちなみに歴史的にはMSRの概念は新しいものではなく、1960年代に米国のORNLことオークリッジ国立研究所で初めて開発された。
溶融塩原子炉実験(MSRE)はこの技術の実現可能性を実証したものの、核兵器用プルトニウムの生産を支える固体燃料炉に関心が移り、近年また注目されているという経緯がある。