自動車用スティール 交通安全の目立たない要

テクノロジー

自動車用鋼材とは何か

自動車用鋼材、つまり自動車用スティールは自動車の製造に使用するために特別に設計された鋼種の広いカテゴリーを指す言葉である。

軟鋼、低合金高張力(HSLA)鋼、先進高強度鋼(AHSS)など多くの種類があり、それぞれ特性や用途が異なるが、いずれも自動車産業の厳しい要求に耐えるように設計されている。

例えば多くの自動車用鋼は、マンガン、ニッケル、クロムなどの元素と合金化して強度を向上させる一方、熱処理や亜鉛コーティングで耐腐食性を高めるなどの化学的な工程が関わっている。

自動車用鋼の概要 T型フォードの頃から既にある長い歴史

最初の自動車は鉄と木でできていたが、産業が発展し製造プロセスが改善されるにつれて強度と耐久性に優れ複雑な形状に加工できるスチール材が選ばれることとなった。そして1908年に発売されたフォード社のT型、いわゆるT型フォードは鋼鉄を多用した最初の量産車の一つである。バナジウム鋼は当時としては斬新な合金で、当時の炭素鋼よりも高い強度を誇っていた。

classic-Model-T-Ford 自動車用スティール 交通安全の目立たない要

そして20世紀後半に開発されたAHSSは、強度だけでなく、燃費向上や排ガス低減に重要な軽量化も実現する材料として、自動車メーカーに大きな進歩をもたらした。このようにハイブリッド車や電気自動車や自動運転、こうしたところばかりが話題となるが、現在進行形でも自動車用の鉄鋼の開発、改善は続いている。

自動車用鋼材の用途は多岐にわたる。車体からエンジン、アクセル、ギアなど、自動車を構成するほぼすべての部品に鋼材は使われているからだ。さらに、スチールはリサイクルしやすいという利点もあり、持続可能な社会を目指す自動車産業にとって、実は最適であり必須の素材であるともいえる。

悲惨な事故、しかし乗員は無事 鉄鋼の研究者のおかげかも

自動車事故のニュースを見ると車が悲惨なくらい潰れているのに、乗員は無事であるというのを見ることがあると思います。あれはただの奇跡ではありません。ほとんど鉄鋼の研究者や開発者の努力のおかげといえます。

こちらは衝突テストの様子。ボディ全体ではなく、人の安全のために重要な乗客スペースの空間に注目して動画を見ると、驚くべき進化が遂げているのがわかってもらえると思う。

Old Car vs Modern Car during Crash Test / Evolution of Car Safety

なぜこういったことが可能なのか?

それは軟鋼のような柔らかい金属を前後の部分などに配置することで衝突のエネルギーを吸収して、乗員が載っているところにはAHSSなどの強く軽い金属を用いているからである。

つまり普段は比較的広い空間で快適な乗客スペースを保ちながら、同時に事故の際には人がいる空間が潰れないように保護しているわけである。適材適所という言葉があるが正に自動車用の鋼材はそれが厳密に行われているテクノロジーの塊といえます。

以下では軟鋼、HSLA、AHSS、そしてT型についてみていきたい。ただし、自動車用の鉄鋼は他にも種類はあり、あくまで代表的なものとしてそれらを取り上げていきたいと思う。そして順番に進化して昔に開発されたものが使われなくなっている訳でもないことに注意して頂きたい。

軟鋼(マイルドスティール)

軟鋼は低炭素鋼としても知られ、鉄と少量の炭素(通常0.05~0.25重量%)を結合させて作られる一般的な鉄だ。自動車以外でも広く用いられる。

炭素含有量が少ないため、展性と延性がある。製造については基本的な酸素製鋼法、または電気アーク炉で鉄を溶かし、炭素やマンガンなどの他の元素を混ぜて特性を高めることで製造される。

特性

延性と展性: 炭素含有量が低いため、軟鋼は様々な形状に容易に成形できる。
溶接性: 炭素含有量が低いため、溶接が容易である。
磁性: 軟鋼は強磁性であるため、モーターや電化製品に有用である。
引張強度が低い: 高炭素鋼に比べて強度が低い。

用途

自動車用ではボディパネルなどの構造部品に使われる。

建築では溶接性と延性が良いため、梁、鉄筋、構造フレームに使われる。他にも、機械部品、パイプライン、亜鉛メッキ鋼板の下地など用途は多くある。

高張力低合金鋼  ハイテンことHSLA

HSLA鋼は炭素鋼にマンガン、クロム、ニッケル、銅などの合金元素を少量添加して製造される鋼の総称である。

これらの元素は、重量を大幅に増加させることなく鋼の強度を高める目的で添加される。正確な組成は、鋼に求められる特性によって異なる。

ちなみにHSLAはHigh-Strength Low-Alloy Steel、つまり直訳するならば、高強度で低合金の鋼鉄、だ。日本では化学物質の呼び名のように、なぜか前後を入れ替えて低合金高張力鋼と呼ばれることも多い。

また、ハイテンサイル(High Tensile)の鋼板、つまり高張力鋼板の略でハイテンと呼ばれることもある。HSLAは知らなくてもハイテンの名称は知っている方も多いのじゃないだろうか。

特性

強度の向上:軟鋼よりも高い強度重量比を持つ。
靭性の向上: 破壊に対する耐性が向上する。
成形性の向上: 強度が高いにもかかわらず、様々な形状に成形できる。
耐食性: 一部のHSLA鋼は耐食性が向上している。

用途

自動車では軽量化と安全性のため、シャーシ、サスペンション、ボディ・イン・ホワイト部品に使用される。建築では橋梁、建築物、強度と靭性が要求される構造物に使用される。変わったところでは高圧ガスややはり石油のパイプラインに使用される。

先進高力鋼 AHSS(Advanced High-Strength Steel)

AHSSは、鋼の加熱、冷却、機械加工を注意深く制御する複雑な製造工程を経て生産される。熱機械制御加工(TMCP)や焼入れ分割加工(Q&P)などのこれらの加工により、強度と延性を向上させる微細構造が形成される。

特性

非常に高い強度: HSLA鋼よりも大幅に高い強度を提供する。
優れた延性: 高強度にもかかわらず、破壊前にかなりの変形を起こすことができる。
優れたエネルギー吸収性: 自動車用途の衝突安全性に役立つ。
軽量化の可能性: 安全性を損なうことなく、部品を薄く軽くすることができる。

用途

主に自動車でAピラー、Bピラー、ドアビーム、バンパー、シャーシ部品など、強度、軽量性、エネルギー吸収性が特に重要な安全部品に使用されている。

T型フォードの革新 バナジウム鋼

Ford-Model 自動車用スティール 交通安全の目立たない要

1908年にフォード・モーター・カンパニーが発表し1927年まで生産されたT型フォード。この車は大量生産の工場システムや販売手法に焦点が当たることが多いが、スチール使用の面でも革命的だった。

T型に使用された鋼鉄はバナジウム鋼であり、特にシャシーやエンジンなどの重要部品に使用された。バナジウム鋼が選ばれたのは当時の自動車に一般的に使われていた標準的な鋼鉄に比べて強度と耐久性に優れていたためである。

白黒映像の教育フィルムを想像してしまう方も多いと思うが、実はコレクターは多く動いているT型フォードも実はまだかなり多くある。

バナジウムの添加は少量であっても鋼の強度、靭性、耐摩耗性を著しく向上させる。T型への採用の選択はヘンリー・フォードがレース活動を通じてバナジウム鋼の特性を知って、冶金学者から助言を受けたことが背景にある。

この当時最先端のスチールを使用することでT型は軽量でありながら耐久性、信頼性に優れた。以前かなり危険な乗り物であった車を大幅に革新し、アメリカ全土に普及させることに鉄鋼の革新が助力したといえるだろう。

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