野球のルーツは19世紀半ばにさかのぼり、1845年にニューヨークのニッカーボッカークラブによってルールが正式化されたものです。
野球というゲームを考えるとき、物理学を思い浮かべるのは最初の直感ではないかもしれません。しかし物理学の原理は野球のすべての投球、スイング、走塁などを支えています。
ピッチングの物理学
ピッチャーがベースボールを投げるとき、投球のスピード、スピン、方向はピッチャーのグリップ、腕の振り、手首の動きによって決まる。
ここで働く物理学の原理には、ニュートンの運動の法則と、回転するボールが飛行中にカーブする理由を説明するマグヌス効果が関係している。マグヌス効果がなければカーブやスライダーの特徴的な動きは説明できないものです。
こちらはマグヌス効果の視覚化映像
直球はツーシーム、フォーシーム(結び目に2本かかるか4本かかるか)で分けられたりもしますが、基本的にはバックスピンによるマグヌス効果で重力に逆らい上と下で打ち消しあってまっすぐに見えます。逆に、人差し指と中指でボールをグリップして投げるフォークボールについては、わざとボールを回転させないことでそのまま重力でボールが落ちるのです。
たまに松脂など粘着物質を使って反則となる選手がいますが彼らはこのマグヌス効果をずるをして得ようとしているからです。どういうことかというと摩擦係数を挙げれば回転数はあがります。そしてその回転数に従ってマグヌス効果は増強されるため、よりボールに変化がつくのです。
全員がレジンという規則で決まった粉とボールの縫い目に指をかけるだけで競争している中で、ずるをしている人は一人だけ指のエネルギーを大量にボールに簡単に伝えられるわけです。小さなずるに思えるかもしれませんが効果は絶大で、F1でいえばタイヤのレギュレーション違反で一発アウトのような大罪です。
バッティングの物理学
打者は投球のスピードと軌道を見極め、スイングするかどうかを決め、そしてエネルギーを最大限に伝えるためにバットの「スイートスポット」でボールをとらえようとする。このプロセスには、運動エネルギー、運動量、弾性衝突と非弾性衝突の原理が関係する。
打ち出し角として知られるバットがボールを打つ角度は、ヒットがゴロになるか、ラインドライブになるか、ホームランになるかに重要な役割を果たす。メジャーリーグでかなり研究されていて中心から下何センチをこの角度で当てると一番飛ぶ、といった研究データが既に随分昔から挙げられている。
大気の影響も
また大気の条件も影響があります。試合が行われる空気の湿度と温度の両方が、打ったときの野球ボールの飛距離に影響を与えるのです。ここでの物理学的原理は空気の密度に関係し、これは湿度と温度の両方が上昇するにつれて減少する。密度の低い空気中では空気抵抗が小さくなるため、野球ボールはより遠くまで飛ぶ。この効果は非常に顕著で、高温多湿の日や空気の薄い標高の高い球場で野球ボールが遠くまで飛ぶ傾向があるのはこのためです。
日本の球場では横浜の球場、昔はアジア最大の球場でもあった阪神タイガースの本拠地甲子園などは海からの風、山からの風といった影響を強く受けます。こうしたことは物理学以前に野球を見ている人ならみんな浜風や六甲颪などと名前がつくくらい知られていることです。試合が始まる前に旗のなびき方を見て解説者がコメントするほどです。こうしたことは風によるものですが、メジャーリーグでは大気の濃度が影響が与える球場があります。コロラドロッキーズの本拠地であるクアーズフィールドです。この球場は標高が高く大気が薄いのです。そのためピッチャーにとってはきつくバッターにとっては最高のフィールドとなっています。実際にコロラドロッキーズ自体が打線が強いチームとして有名です。
(余談ですが子供の頃は日本ではかなり珍しいロッキーズファンだった自分。昔のラリー・ウォーカー、トッド・ヘルトン、ガララーガなどが揃っていた時は凄かった。。)
走塁の物理学
選手が塁を回るとき、ベースラインに沿って直進することはない。その代わりに、より広い弧を描く。これは物理学の求心力の概念を応用したものといえる。最短距離を走るより、選手は方向を変えながらスピードを維持することができ早く周れるのだ。
原理的にはレーシング系の競技と同じである。アウトインアウトといってカーブを高速で回る場合、外からカーブに近づき再度外側に抜け出るテクニックが使われている。F1やWRC、またはイニシャルDを見ている人ならもっと直感的にわかるかもしれない。
もちろん物理学より心理学の面が強く出ることも多々ある。
フィールディングの物理学
野手がフライボールを捕球するとき、最初は予想される着地地点まで急ぎ足で走り、ボールが下降するにつれて微調整を行う。このパターンは当たり前だろ、と思う方も多いかもしれないが「最適戦略」と呼ばれるものだ。実際にフライボールを捕球するための最良のアプローチであることが物理学者によって確認されている。
バット
バットは、トネリコ材、カエデ材、またはリーグによってはアルミニウムで作られることがあります。それぞれの素材には異なる特性がある。完全に物理学でいえば剛体の力学の分野である。バットの長さ、重さ、慣性モーメント(物体の回転速度の変化に対する抵抗力の尺度)は、選手の体力やスイングメカニクスに合わせて最適に調整することができる。日本ではバット職人がたまに有名な野球選手と協議をしているようなドキュメンタリーやニュース番組があるがまるで昔の侍と刀鍛冶のような真剣さである。
ボール
ゴムやコルクの中心部、巻かれた糸、革の外装など、野球ボールのデザインは、その飛びとバウンドの特性に不可欠である。使用されている素材と巻き糸の締まり具合は、ボールの反発係数、つまり弾みやすさに寄与する。
これは、ボールの質量、投球または打撃の速度とともに、バウンドまたは打撃後のボールの速度を決定する要因だ。また、ボールの滑らかな表面に対して盛り上がっている野球ボールの縫い目もグリップのためだけに役に立つのではない。最初に書いたマグヌス効果の増強につながりボールが回転して動くときに空気と相互作用し、その軌道に強い影響を与えることになるのだ。
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